乳がんの検査結果で、「HER2は陰性です」と説明を受けたことがある方もいらっしゃると思います。これまでは、HER2陰性の場合、「抗HER2薬は自分には関係のない治療」と考えられることが一般的でした。しかし近年、HER2陰性とされてきた乳がんの中にも、「HER2低発現」「HER2超低発現」という新しい考え方が生まれ、治療の選択肢が広がってきています。今回は、HER2の検査結果の見方、「低発現」「超低発現」とは何か、新しく広がっている治療の選択肢、治療で注意したい副作用について、できるだけ分かりやすくご紹介します。
そもそもHER2とは?
HER2(ハーツー)とは、乳がん細胞の表面などに存在するタンパク質の一つです。
乳がんでは、このHER2がどの程度みられるかを調べることで、治療方針を考える際の重要な情報になります。
検査では主に「IHC(免疫組織化学)」という方法が用いられ、結果は以下のように分類されます。
| 検査結果 | おおまかな意味 |
|---|---|
| 3+ | HER2が多くみられる |
| 2+ | 中間的な結果。さらにISH検査で確認 |
| 1+ | HER2がわずかにみられる |
| 0(わずかに染まる) | ごくわずかにHER2がみられる |
| 0(染まらない) | HER2がほとんどみられない |
従来は、IHC 3+またはIHC 2+かつISH陽性を「HER2陽性」とし、それ以外はまとめて「HER2陰性」と扱われていました。
HER2陰性の中にも「低発現」「超低発現」があります
近年では、これまで「HER2陰性」とされていた乳がんを、さらに細かく分類する考え方が使われるようになっています。
HER2低発現とは
以下に該当する場合を、HER2低発現(HER2-low)と呼びます。
- IHC 1+
- IHC 2+かつISH陰性
HER2陽性ほど多くはないものの、がん細胞にHER2がある程度みられる状態です。
HER2超低発現とは
HER2の検査結果が「0」であっても、詳しく見ると、ごく一部のがん細胞にわずかなHER2が確認できることがあります。
こうした状態をHER2超低発現(HER2-ultralow)と呼びます。
つまり、同じ「HER2陰性」という診断の中でも、HER2低発現、HER2超低発現、HER2がほとんど認められない状態に分けて考えられるようになってきています。
なぜ「低発現」「超低発現」を区別するようになったの?
大きなきっかけとなったのが、エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)という薬です。
エンハーツは、ADC(抗体薬物複合体)と呼ばれるタイプの薬です。
簡単にいうと、がん細胞にあるHER2を目印にして薬を届け、その周囲のがん細胞にも作用する仕組みを持っています。
そのため、HER2が多い「HER2陽性」の乳がんだけではなく、HER2が少ない乳がんにも効果が期待できることが分かってきました。
これまでの「HER2が少ない=抗HER2薬の対象ではない」という考え方が変わってきたことで、「HER2低発現」「HER2超低発現」という区分が治療方針を考えるうえで重要になっています。
HER2低発現・超低発現に対する治療データ
ホルモン療法後に病状が進行したHER2低発現・超低発現の乳がん患者さんを対象とした国際的な臨床試験では、エンハーツによる治療効果が報告されています。
試験では、がんが進行せずに過ごせた期間について、
・エンハーツ:約13か月
・従来の化学療法:約8か月
という結果が示されました。
HER2超低発現の方についても、同様の傾向がみられています。
ただし、これらはあくまで臨床試験全体の結果です。
すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではなく、現在の病状やこれまでに受けた治療などを踏まえて、治療が適しているかを判断する必要があります。
また、HER2超低発現に対する治療効果については、今後さらにデータが蓄積されていく段階です。
エンハーツで注意したい副作用
エンハーツによる治療では、いくつかの副作用に注意する必要があります。
特に重要なのが、間質性肺疾患です。
次のような症状がみられた場合は注意が必要です。
- 乾いた咳が続く
- 息苦しさ・息切れ
- 発熱
また、吐き気、だるさ、脱毛などがみられることもあります。
治療中に気になる症状がある場合は、自己判断で様子を見ず、主治医や医療機関へ相談することが大切です。
自分が「HER2低発現・超低発現」か確認するには?
以前「HER2陰性」と説明を受けた方でも、過去の検査結果を確認すると、HER2低発現やHER2超低発現に該当する可能性があります。
主治医に確認するときは、次のような内容を聞いてみると分かりやすいでしょう。
- 私のHER2検査の結果は何プラスでしたか?
- HER2低発現・超低発現に該当しますか?
- 現在の治療後に考えられる次の治療には何がありますか?
- その治療は保険適用になりますか?
- 副作用が出た場合は、どこへ連絡すればよいですか?
過去の病理検査結果などが手元にある場合は、受診時に持参すると確認しやすくなります